皆さんこんにちわ!まっきーです。
皆さんは「トムラウシ山遭難事故」をご存じですか?
この事故は、2009年7月16日早朝から夕方にかけて、北海道大雪山系トムラウシ山が悪天候に見舞われ、ツアーガイドを含む登山者8名が低体温症で死亡した遭難事故です。
夏山の山岳遭難事故としては、近年まれにみる数の死者を出した惨事と言われています。
なぜ、登山とはいえ夏という季節で低体温症が起きたのでしょう?
今回は、この事件のあらましや低体温症の怖さについて、簡単にご説明していきます!
登山パーティの概要
この遭難事故に遭った登山パーティは、いわゆる「登山ツアー」で形成された即席パーティだった、という事実があります。
この登山ツアーは「募集型企画旅行形態」で、国内外の登山ツアーやエコツーリズムを取り扱う旅行代理店「アミューズトラベル株式会社」が主催した企画旅行でした。
旅程ではトムラウシ山や旭岳などを2泊3日で縦走する内容であり、50~60代の客15名(男性5名、女性10名)とガイド3名の計18名が参加していました。
7/13に東川町の旭岳温泉白樺荘に宿泊。翌日の7/14~7/16で登山する日程でしたが、事故はツアー最終日の7/16に起きています。
天候の予測誤りが大きな影を落とす
本ツアーの行程では、実は台風発生の予報が出されており、ツアーに影響する可能性がありました。
天気予報は部屋のテレビで確認、ガイド B(32 歳)は、14 日は大丈夫だが、15、16 日は崩れるだろうと予想した。
引用元:トムラウシ山遭難事故報告書 より
この時点で「大丈夫か?」と不安を持つ方も居たようですが、プロのガイドが居るという事で、判断はガイドに委ねていたものと思われます。
天気予報通り、問題がなかったのは14日のみ。15日からは次第に天候が悪くなり、この日はパーティがかなり体力を消耗している事が分かります。
女性客 G(64 歳)
「この日は展望もなく、泥んこ道を長時間歩いたため、皆さんへろへろだったようだ」
女性客 A(68 歳)
「夜 2 時ごろ、風雨が強かった。1 階は雨が吹き込むので、シュラフなどが濡れた。私個人としては 1 日停滞しても、キャンセル費用は掛かるが、命には代えられないと思った。」
引用元:トムラウシ山遭難事故報告書 より
翌日の16日も悪天候が続き、登山せずに下山をするか、山小屋で台風をやり過ごす、という選択肢もあったようですが、結果的に登山を決行します。
しかし、その決断が誤りであったことがのちに分かります。
ガイド B(32 歳)
「もし引き返すという決断をするなら、結果論だが、天沼かロックガーデンの登り口辺りだろう。あるいはもっと手前のヒサゴ沼分岐で、主稜線に上がった段階でそうするのが現実的だろう。しかし、そこで、『ルートを変えて、下山します』と言えるほどの確証がなかった。それと、やはり前日に低気圧が通過して、この日は離れていくだろうという予報だった。
それが、逆にあそこまで風が強くなってしまうというのは、全く予想外、想定外だった」
引用元:トムラウシ山遭難事故報告書 より
上記の「やはり前日に低気圧が通過して、この日は離れていくだろうという予報だった」の部分。
実は「山の天気は平地より数時間遅れる」のが常識らしいのです。そのため、山では天候回復が遅れ、パーティが強風と雨に晒される事態に陥ります。
この判断ミスが、のちに次々と低体温症を発症する悲劇を引き起こします。
錯乱し奇声を発する発症者たち
このツアーでは15名のうち、約半数の8名が低体温症で命を落としています。
低体温症は、人間の内臓が生命活動を維持できる恒温(36~37℃)を下回ることで発症、そのまま放置すると100%死に至る、非常に怖い症状です。
先ほど説明したとおり、登山当日は台風の影響で山の天候が大荒れでした。
「ものすごい風になった。とてもではないが、まっすぐに立って歩けない風だ。記憶では冬の富士山くらいの強風だった」
引用元:トムラウシ山遭難事故報告書 より
トンデモない強風と雨に見舞われ、登山者の体力は奪われる。さらに濡れた服に吹き付ける強風が体温を奪い、次々と低体温症を発症していきます。
低体温症が怖いのは、発症した際の症状です。
最初は身体の震えが起こり、体温の低下が続き恒温(36 ~ 37 ℃)を保てなくなると、やがて錯乱状態を引き起こす。そして、最終的には意識を失います。
この「錯乱状態」と言うのが実に怖いんですよね。
実際、トムラウシ山遭難事故では、低体温症の発症者は『嘔吐したり、奇声を発したりするようになった』と事故報告書に書かれています。
女性客 G(64 歳)
「北沼は白く大きく波打っていた。小さな沼がこんなに、と怖かった。渡渉後、その先で皆休んでいたが、女性客 K(62 歳)さんが嘔吐し(何も出ない)、奇声を発していた」
「南沼キャンプ場の先だと思うが、女性客 3 人に追いついた。女性客 A(68 歳)さんは元気で、救助要請に急ぐというのでそのまま行かせた。
女性客 K(62 歳)さんはぐったりしていたし、女性客 L(69 歳)さんは奇声を発していた」
引用元:トムラウシ山遭難事故報告書 より
ほとんどホラー映画だよね・・・
なぜ「奇声を発するか」についてですが、以下の見解が同報告書内に記載されておりました。
低体温によって心臓が一回に送り出す血流量が減少することにより脳への酸素も減少し、それとともに脳血流においては、冷たい血液が流れるために脳機能は低下し始める。
人間が他の生物と違って高等な知恵や機能を有しているのは脳の中の「大脳皮質」の存在がある。
この大脳皮質の中の前頭葉に人間らしい運動機能、言語、精神機能をつかさどる中枢がある。
この中の言語中枢が低体温によって抑制が取れると自分の意志とは関係ない言葉、「奇声」「意味不明な言葉」を発するものと思われる。
引用元:トムラウシ山遭難事故報告書 より
低体温症によって「言語中枢」が制御できなくなり、「奇声を発したり、意味不明な言葉」を発するようになる。
つまり、低体温症を発症すると判断能力も著しく低下すると思われ、自力で症状を改善させるのが非常に困難なことが分かります。
熱を産生する「身体の震え」
また、寒いときに起きる「体の震え」ですが、これは筋肉を動かすことで熱をつくり、体温を維持するための現象です。
しかし、登山中に低体温症になった場合、熱を作るエネルギー(食料の補給)が十分でなければ熱を作ることができず、低体温症が進行してしまう可能性が高いです。
今回のケースでは、強風の中での登山で体力を著しく奪われ、身体が濡れた事でさらに急速に体温が低下したものと推測できます。
この中で、行動食(つまりエネルギー)を摂れていなかった場合、身体の震えによる熱産生も出来ず、低体温症を発症する可能性がさらに高くなっていました。
行動食を摂ることは、とても大切なんですね・・・
もうひとつ、今回のパーティーは登山客15名とガイド3名の計18名でしたが、このとき誰も「低体温症」に関する正しい知識を持ち合わせていませんでした。
そのため「嘔吐したり奇声を発する」行動が低体温症の症状であると察知できず、適切な処置を取れなかった、という事実もあります。
1人でも低体温症の知識を持ち合わせていたら、救えた命もあったのかも知れませんね・・・。
登山ツアーという形態の危うさ
この登山ツアーは、旅行代理店アミューズトラベル株式会社が主催した企画旅行でした。そのため、多くの方がこのとき初対面でした。
また、プロであるはずの3名のガイドも、山における天候予測の判断を誤り、「天候が回復する」と誤った予測の元に行動しています。
また「ツアーの日程を遅らせられない」という精神的な圧迫があったと思われ、それにより「判断の遅延や間違い」を引き起こした可能性もあります。
ツアー登山は気軽に参加できるだけに、こういったマイナス面がある事も十分に考慮したうえで利用した方が良いかも知れませんね。
登山ツアーは気軽に参加できるので、ついつい他人任せになる傾向があるのかも知れないですね。
なお、旅行代理店アミューズトラベル株式会社はその後にも遭難事故を起こし、結果的に旅行業の取り消し処分を受けています。
生死を分けたものは何か
今回低体温症を発症し死亡したのは15名中8名でした。
なぜ低体温症を発症した方と、そうでない方が居たのか。この両者を分けた違いが何だったのか気になるところですよね。
生死を分けたポイントは、主に以下の2点ではないかと思われます。
①装備の違い(または寒さ対策をしていた)
②行動食の摂取
①については、いわゆる装備性能の差もしくは寒さ対策をしていたかどうかですね。
いわゆる安価な装備を使用していた場合や、適切な寒さ対策をしていなかった人ほど、体温維持が出来なくなり低体温症を発症した、という事実があります。
ついつい安価な装備を選びがちですが、登山装備は命に関わる事なので、しっかりしたものを選びたいですね。
②については、身体が熱を産生するだけの必要なカロリーを、こまめに摂取していた(行動食を食べていた)かどうかです。
今回はかなりの強風の中、何時間も登山をしています。そのため、登山中は相当な量のカロリーを消費していたものと思われます。
一般的に「フルマラソンの消費エネルギーが 2000 ~ 2500kcal程度」と言われております。
一方、今回の台風の中での登山では、これに相当するか、それを上回るカロリー消費量であったことも分かっています。
1 日当たりの総消費エネルギーは、登山のコンディションが良いと仮定した場合でも、H さんで 2000 ~ 2300kcal、C さんでは 3100 ~ 3500kcal となる。
そして、今回の遭難当日のような悪条件であれば、少なくともこの値の数割増しのエネルギーを消費していただろう。
引用元:トムラウシ山遭難事故報告書 より
私はフルマラソンの経験がありますが、完走するには変な体力が必要です。
フルマラソンの42.195kmを走るより数割増しのカロリー消費量ですから、いかに今回の登山が過酷であったのかが分かります。
フルマラソンなんて、私には絶対ムリ~!
この状況下にて、必要な行動食を食べていなかった方は、身体が熱を産生できずに低体温症を発症した一つの原因になったものと思われます。
まとめ
この遭難事故のあらましについては、インターネット上でも詳しい情報を得る事も可能です。
トムラウシ山遭難事故 – Wikipediaja.wikipedia.org
私は、この事故に興味を持ち、上記サイトの報告書を食い入るように読んでしまいました。
当時の状況が良く分かる内容になっており、ある意味とても怖く、そして個人的にはとても興味深い内容でした。
『事実は小説より奇なり』ですね。そして実際に起きた事という事実が、より一層その「怖さ」を引き立てますよね。
ちょっとしたホラー映画より、よっぽど怖いね~!
以上、トムラウシ遭難事故についてでした!