皆さんこんにちわ!まっきーです。
今回は、宮部みゆきの代表作である『火車』をのネタバレ感想を解説していきます!
火車は、宮部みゆきさんが、まだデビューも間もない1992年に発表した長編サスペンス小説です。
本作はおよそ28年前に小説で読んだことがあったのですが、先日「Audible(書籍を朗読してくれるサービス)」で改めて音声で楽しんだ次第です。
https://www.audible.co.jp/pd/火車-オーディオブック/B07W11H8F7
20代そこそこで本作を読んだ時は、読んだ後の余韻が何とも言えず身震いを覚えた、大変記憶に残る傑作小説、という感想でした。
本を読むのが遅い自分が、先が気になって一気に読んでしまった事を今でもよく覚えています。
ここまで夢中になって読んだ小説は、他に東野圭吾さんの「白夜行」や、鈴木光司さんの「リング」くらいかも!
せっかくなので、火車をネタバレ全開にて感想を述べていきます!
※注意!ネタバレに繋がる内容を多分に含みますので、未読の方は本作を読んでから、是非お読みください!
1.あらすじ
刑事である本間俊介は、犯人確保時に負った傷のために休職していた。
そんな彼に、亡くなった妻・千鶴子の親戚で銀行員の栗坂和也が意外な事を頼み込む。
謎の失踪を遂げた和也の婚約者・関根彰子を探し出して欲しいという。
和也の話によれば、クレジットカードを持っていないという彰子にカード作成を薦めたところ、審査の段階で彼女が自己破産経験者だということが判明した。
事の真偽を問い詰められた彰子は、翌日には職場からも住まいからも姿を消していたとの事だった。
刑事である経験と勘を頼りに、姿を消した関根彰子の痕跡を辿る本間だったが、そこにはカード破産に絡む、悲しくも辛い過去が隠されていたー。
関根彰子さんに一体何があったのか?とっても気になるよね!
2.カード破産というテーマ
本作は「カード破産」や「自己破産」がテーマとなっています。
本作が舞台になっているのは1990年頃の日本。この頃は出資法、利息制限法という2つの利息があり、その上限を29.2%と20%としていました。
この部分がいわゆるグレーゾーン金利と呼ばれるものです。
いま考えたら、あり得ないほどの高利息ですよね…
正直に申し上げると、私も若い頃にいわゆる「消費者金融」からお金を借りた経験があります。
確か利息は28%ほどであった記憶があります。この利息が如何に高い利息であるか、ご説明するまでもないですよね。
例えば仮に借り入れ金が数十万円ともなると、毎月1~2万を返済しても半分近くを利息で持っていかれるイメージです。
但し現在では法整備され、いわゆるグレーゾーン金利は廃止されています。
貸金業規制法が廃止され、2010年6月18日に貸金業法が完全施行しました。これは資金需要者等と呼ばれる、消費者金融利用者を保護するために制定された内容になります。
引用元:https://ma-net.jp/card-loan/420
この貸金業法は、貸金業者(消費者金融等)と呼ばれる業者を規制するための法律で、この法律施行以降、キャッシングの利用方法が劇的に緩和、利用しやすいものとなりました。
とはいえ、現在でも金利上限は18%であり、決して低くはありません。借りている金額が高くなれば、かなりの負担になるでしょう。
また、最近では「リボ払い」という新たな手段にて、消費者を借金地獄へ叩き落そうとしているとしか思えない、危険な支払い方法が存在しています。
そう言えば、カード会社に勝手にリボ払いにされていた事が以前あったわ…
そのため、「カード破産」や「自己破産」というテーマは、依然として我々消費者にとっては、誰もが陥りかねない身近なテーマだと言えます。
3.本作の主人公は誰なのか
本作は、刑事(休職中)である本間俊介が、消えた関根彰子の痕跡を追う物語であり、一貫して本間刑事の視点からのみ物語が語られます。
一方で、姿を消した関根彰子(新城喬子)の視点からは物語は一切語られません。彼女がどんな想いで犯罪を犯したのかは、想像するしかないのです。
いきなりネタバレですが、序盤に登場する関根彰子は既に殺害されており、新城喬子(あらき きょうこ)が、その戸籍を乗っ取っていたことが判明します。
そして物語は、以下の事実が少しずつ判明していく展開が続きます。
- 新城喬子はなぜ、関根彰子の戸籍を乗っ取ったのか?
- 新城喬子と関根彰子は、一体何者なのか?
- 新城喬子と関根彰子は、どのような関係だったのか?
本作の面白さは間違いなく、この謎を追う過程にあり、少しずつ真実が明るみになっていく過程が、たまらなく面白い!と私は思います。
同時に、謎が明るみになっていく過程は、言い知れぬもの悲しさにも満ちています。
2回目を読んで感じたのは、本作の主人公は本間刑事ではなく新城喬子なのではないか、という事でした。
この物語の中で、読者が複雑な感情や思いを抱く相手は、間違いなく本間刑事ではなく新城喬子のはずです。
本間刑事は、あくまでストーリーテラーでしかないのです。
その本間刑事の視点を通じて、読者が新城喬子に対して何を感じるか、そして何を想うのか。
間違いなく、本作の主人公は新城喬子なのです。
4.新城喬子の壮絶な人生
彼女は、父親が作った借金により、本人にはまったく非がないのにも関わらず、17歳にして破滅的な人生を歩まざるを得なくなります。
その生き地獄から抜け出すために、新城喬子は必至にもがき続けますが、最終的には全てに見放されます。
そして「他人の戸籍を乗っ取り、別人として生きていく」ことを決心する。
彼女の壮絶な人生や、他人の人生を奪うと決心するまでの葛藤を想うと、強く胸が締めつけられる思いがします。
彼女が犯した罪は、到底許される事ではありません。新城喬子はなんの罪もない関根彰子を殺害し、彼女になりすましたのですから。
しかし、新城喬子が歩んできた人生を想えば、彼女を強く批判する気にはなれません。
新城喬子は何の造作も迷いもなく、関根彰子を殺せたのでしょうか?
その答えは「No」だと思います。
その理由は、彼女の以下の行動に現れていると思います。
- 関根彰子のアルバムを、親友と思しき人にわざわざ郵送している。
- 関根彰子の母校(小学校)を訪れている。
新城喬子が何を想って、上記の行動を起こしたのかは分かりません。
しかし、この行動から伺える新城喬子は冷徹な殺人者ではなく、関根彰子を想うことの出来る、ごく普通の人間であった、という事実です。
もちろん、そう思うのならば殺すなよ、とは思います。しかし、新城喬子はそうせざるを得ない状況に追い込まれていたのです。
5.新城喬子を殺人者にしたのは誰なのか
では、彼女を殺人者にしたのは一体誰なのでしょうか。
借金を返済できなくなった父親か、執拗な返済を迫り彼女を追い詰めた闇金業者か。それとも、非合法的な返済を取り締まることができない法律でしょうか。
1つ言えることは、彼女には選択肢がほとんどなかった、という事です。
- 闇金業者(ヤクザ)の言いなりとなって、奴隷として働き続ける。
- 一生、闇金業者(ヤクザ)追われ続ける(逃げ続ける)。
- 自殺する。
- 他者に成りすます(或いは強盗などの犯罪を犯す)。
皆さんは、上記の選択を迫られたとき、どれを選択しますか?
もちろん、彼女も上記の選択とは別の人生を選択したかったでしょう。
もう一つ選択肢があるとすれば、それは「彼女の背負った借金を、一緒に背負ってくれる人間」を探すことでした。
彼女は美人で、とても魅力的な女性として描かれています。成功する可能性はあったのかも知れません。
しかし、人間は利己的な生き物。その美しい彼女と結婚し、それなりに資産家であった倉田康司さえも、結局は彼女を見捨ててしまいました。
その選択が、どんな結果に繋がるのかを知りながら、倉田は彼女を見捨てたのです。
夫に見捨てられ、ふたたび独りきりになった新城喬子。
失意の中で、彼女が4番を選択するのはある意味で必然であった、と私は思えてなりません。
新城喬子は、一縷の望みをかけて4番を選んだ。まさに最期の賭けに出た。彼女には、もはや4番以外の選択肢は無かったのです。
こうして新城喬子は、自ら殺人者となり、別人として生きていく事を決めたのです。
まとめ
30年近く前の作品ですが、今読んでも非常に面白い作品でした。
今回はAudibleにて懐かしさから何気に聞き始めたのですが、結局は止められずに最後まで聞いてしまいましたw
それだけ、本作が面白いという事ですね!
改めて読んで様々な感情が沸き起ったので、その一端を本記事に書かせて頂きました。
もし目の前に新城喬子が現れ、事情を説明され助けを求められたら、自分はどうしていただろうか?と想像せずには居られません。
そして、追い詰められた彼女が『他人になりすます』という道を選んだことを、とても非難する気にもなれません。
彼女を親身になって心配し、想い、地獄から救ってくれる人間が現れ、その人と幸せに暮らす新城喬子さんの姿を、私は想像せずには居られません。
以上、「火車」の感想でした!